きっかけは「手を動かしたい欲」の延長線上だった
いや、これがですね。
陸は40年以上、基板とコードを相手にしてきた人間なんよ。
定年退職してから少し時間ができて、ふと「絵でも描いてみるか」と思った。
理由は単純で、はんだごてとキーボード以外で手を動かしたくなったから。
で、油絵を選んだ。
水彩でもアクリルでもなく油絵にしたのは、「乾くのが遅い=やり直しがきく」という性質がデバッグに似てると感じたから。
失敗を修正できる画材って、試行錯誤を信条とする人間には相性がいいっちゃ。
最低限揃えるもの——意外と少ない
油絵って道具が多そうに見えるけど、最初に必要なのはこれだけ。
- 油絵具: 白・黒・赤・青・黄の基本5色(1本300〜600円程度)
- 筆: 平筆と丸筆を2〜3本ずつ(100均でも一応使える)
- パレット: 使い捨てのペーパーパレットが楽
- 画用液: ペインティングオイル1本あればまず困らない
- キャンバス: F4号(333×242mm)が机の上で扱いやすい
- 筆洗い用のブラシクリーナー
全部合わせて3,000〜5,000円くらいで始められる。
陸は北九州のホームセンターで揃えたけど、ネットでセット品を買うのも手。
「高い画材じゃないと描けない」は幻想だと、手を動かして知ることになる。
描く手順——因果関係で組み立てる
油絵の手順は、ソフトウェア開発の工程に似てると感じた。
時系列というより、「なぜこの順番なのか」の因果で理解すると腑に落ちる。
1. 下描き(設計フェーズ)
鉛筆か薄めた油絵具でざっくり構図を取る。
ここで完璧を目指さない。要件定義と同じで、大枠が決まればいい。
2. 暗い色から塗る(基盤構築)
油絵は「暗→明」が基本原則。
理由は、明るい色の上に暗い色を乗せると濁るから。
ファームウェアの低レイヤーから組むのと同じ発想で、土台が安定してないと上が崩れる。
3. 大きい面から細部へ(粗→密)
最初は大きい筆でざっくり面を塗る。
細い筆で細部を描くのは最後の最後。
これを逆にやると全体のバランスが破綻する。
あー、なるほど、そういうことか——と、3枚目くらいで体感として理解した。
4. 乾燥を待って重ね塗り(イテレーション)
油絵具は乾燥に1〜3日かかる。
この「待ち時間」が最初はもどかしいけど、乾いた上に色を重ねると深みが出る。
1回で完成させようとしないこと。これ、コードのリファクタリングと本質的に同じ。
陸がハマった落とし穴3つ
実際に描いてみて痛感した失敗を共有しておく。
① 絵具を出し惜しみした
チューブからちょびちょび出すと、混色がうまくいかない。
油絵具は「思ってる3倍」出すのが正解。ケチると色がガサガサになる。
② 筆を洗わずに色を変えた
「まあいけるやろ」と横着したら、全部の色が濁って泥みたいになった。
色を変えるたびにクリーナーで洗う。これは省略したらあかん工程。
③ 換気を忘れた
油絵具とオイルは揮発性の溶剤を含むものがある。
締め切った書斎で2時間描いて、軽い頭痛がきた。
窓を開けるか、換気扇を回すか。安全面は絶対に手を抜かんこと。
エンジニア的に「油絵」が面白い理由
油絵には「正解がない」けど「原理原則はある」。
暗から明へ、粗から密へ、薄い層から厚い層へ。
この物理的な制約の中で自由に表現するという構造が、組込み開発のリソース制約下での設計と重なる。
そして何より、「わからないこと」に出会える。
色を混ぜたときの予想外の発色、筆のタッチで変わる質感。
60年生きてきても、初めて触る領域には未知が山ほどある。
この感覚の鮮度が落ちてないことに気づく瞬間が、いちばん嬉しい。
油絵は「うまい・下手」の前に、手を動かす行為そのものが楽しい。
誰かに見せるためじゃなく、自分の手で確かめるために描く。
そういう付き合い方が、陸にはしっくりきてるっちゃ。
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