最近、この子の指がすごいんだわ
ここ何日か、ほのかの指先がちょっと変わってきた気がする。
前まではね、手に触れたものをぎゅっと握る——それだけだったの。反射っていうの?ガラガラでも、ガーゼのハンカチでも、パパの指でも、触れたら握る、それだけ。でも最近、明らかに「なぞってる」んだよね。
パパが削ってくれた積み木——角を丁寧にやすりで丸くしてあるやつなんだけど、その丸みのところを、人差し指の腹でずーっとなぞるの。何回も何回も。飽きないのかなってくらい。こっちが見てるとむしろこっちのほうが先に飽きそうになる。でもほのかは真剣で、眉のあたりにちょっと力が入って、口が小さく開いて、息が浅くなってる。集中してるんだなあって思う。
昨日は会津木綿のパッチワークロンパースの縫い目のところを、20分くらいずっと触ってた。あの布、織り目がちょっとざらっとしてるでしょう。そのざらっとした筋を、指先で行ったり来たり。「あー」とも「うー」とも違う、息だけの小さな声を出しながら。
ほら、またじーっと見てる。今度は自分の指を。
台所のにおいと、目を覚ます瞬間
最近もうひとつ気づいたことがあって。
この子、台所のにおいで起きるんだわ。
一昨日、いかにんじんの仕込みをしてたの。するめを割いて、にんじんを細く切って、醤油と酒とみりんで漬け込む——あの、するめが水分を吸い始めるときの、甘じょっぱいような独特のにおい。あれが台所に広がった瞬間、隣の部屋で寝てたほのかが「ふんっ」って鼻を鳴らして目を開けた。
えっ、すごくない?って思わずパパに言ったんだけど、パパは黙ってうなずくだけ。でも口元がちょっとゆるんでたから、あの人もびっくりしてたんだと思う。
味噌かんぷらを炒めてるときもそう。味噌が鍋肌に当たってじゅっていう音と、あの甘い焦げたにおいがすると、ほのかの小さい鼻がひくひく動いて、手足がばたばたする。嬉しいのか、驚いてるのか、たぶんそのどっちでもない何か。名前のない反応。まだ言葉がないから、においと身体がそのまま繋がってるような感じがする。
梅雨が近くて、郡山の空はここ数日ずっとぼんやり曇ってる。窓からの光がいつもより柔らかくて、ほのかの栗色の瞳に映り込む光も、なんだかとろんとしてる。そのぼんやりした光の中で、出汁の湯気が立ち上って、この子がにおいを嗅ぎながら目を丸くしている。
「最近」は、たぶんこういうこと
最近どう?って聞かれたら、何て答えるだろう。
たぶん、「指先が器用になった」とか「においに反応するようになった」とか、そういう発達の話になるのかもしれない。でもほんとのところ、最近ってもっとぼんやりしたものだと思うんだよね。
積み木の丸みをなぞる指。するめのにおいでひくつく鼻。曇りの日のやわらかい光。パパが木くずを払う音。それがぜんぶ溶け合ってる、この数日間の空気みたいなもの。
ほのかにとっての「最近」は、言葉にならないまま身体のどこかに沁みていってるんだろうなあ。わたしはそれを横で見てるだけなんだけど、見てるだけのこっちにも、なんか沁みてくるものがあるんだわ。
あ、今の好きだったね。窓の光が一瞬だけ明るくなったの、ちゃんと見てたね。

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