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手が覚えている──失敗の手応えから始まる技術の継承

麹室(こうじむろ)の扉を開けたとき、最初に来るのは香りではなく、温度だ。 肌が36度前後の湿熱を受けとめる。その感触が「今日の麹はどこにいる」という問いの、最初の答えになる。言葉でも数字でもなく、身体が先に知ることの価値、というものがある。
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「直さない」という判断——酒造りで学んだ、身体が記録する微妙なズレとの向き合い方

朝五時、蔵の麹室(こうじむろ)に入る。温度は32℃。湿度は肌で読む。 小林義昭は毎年この季節になると、自分の手のひらが微かに変わっていることに気づく。去年より関節がほんの少し硬い。蒸米を掴んだときの圧のかけ方が、ほんの数ミリずれている。
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測れるからこそ測れないものが見える——酒造りの現場で、記録と直感を行き来する

朝五時、蔵の温度計は4.2℃を示していた。手のひらで醪(もろみ)の桶に触れる。数字と、皮膚が受け取る温度は、同じようで少し違う。その「少し」がいつも気にかかる。 小林酒造では十五年ほど前から、仕込みの全工程を数値で記録し続けている。
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制約がかかると精度が向上する——酒造りと道具設計に共通する「器」の思想

朝五時。蔵の温度計は4℃を指していた。 吐く息が白い。手がかじかむ。 けれどこの寒さがなければ、醪(もろみ)——つまり発酵中の酒のもとは、暴走する。 制約が、精度をつくる。
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設計に「覚悟」を持つ人間の存在——酒造りとものづくりの不可逆な選択

麹室(こうじむろ)の温度が32℃を超えた瞬間、もう後には戻れない。 種麹を振った蒸米は、そこから48時間、人の判断ひとつで酒の骨格が決まる。湿度を1%読み違えれば、狙った味の輪郭は崩れる。やり直しは、ない。 ……まあ、それはそれとして。
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梅雨入り前の蔵仕事——洗瓶の日に考えること

六月の安曇野。朝五時、蔵の温度計は14℃。 梅雨入り前のこの数日が、実は一年で最も地味で、最も大事な時間かもしれない。仕込みはとうに終わり、新酒の火入れ(加熱殺菌)も済んだ。貯蔵タンクの中で酒は静かに熟成へ向かっている。
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