記録とは「その場の身体感覚」を未来に渡すことだと考えています
私、矢島が手帳やノートを使い続けて、もう40年近くになります。ゴルフのスコア帳、出張先の食事記録、人事面談のメモ——形は違えど、根にあるのは一つです。「その瞬間の感覚を、後で再現できる精度で残す」ということに尽きます。
フィールドノートというと、研究者やジャーナリストが使う特別な道具のように聞こえるかもしれません。ただ実態は、現場で見聞きしたことを素早く・正確に書き留めるための、至ってシンプルな習慣です。ここが肝なんですが、「きれいにまとめる」のはあとでいい。現場では「速度」と「生々しさ」を優先する——この順番を崩さないことが大切だと考えています。
書くべき要素は、私の経験上、次の三つに絞られます。
- 感覚記憶:においや温度、音、手触りなど、写真には写らないもの
- 文脈情報:いつ・どこで・誰と・何のためにという状況の骨格
- 自分の解釈:事実とは別欄に「矢島はこう読んだ」と明記する
この三つを分けて書くだけで、ノートの再利用率が格段に上がります。
「出張の食事記録」を例に、具体的な書き方を示します
以前こういうケースがありまして。富山出張の折に立ち寄った、駅近の小さな鮨屋での話です。
その日のノートの冒頭には、こう書いてあります。——「白海老の軍艦、口に入れた瞬間にほのかな磯の甘みが広がり、次の呼気に塩気が混じる。カウンター越しの板前の手の動きは無駄がなく、静かな緊張が場に漂っていた」
これが感覚記憶の欄。続けて文脈情報として「〇〇年〇月、富山駅徒歩3分、18時入店、カウンター7席、予算6,000円程度」と書き添えます。最後に解釈欄には「長岡の河岸と比べ、甘みの質が異なる。富山湾の水温が関係するか、要確認」と一行。
要はこういうことです——事実・感覚・解釈を「混ぜずに書く」。これが、数年後に読み返しても情報が腐らないノートの作法です。
媒体の選び方と、継続させる小さな工夫
私はA6サイズの無地ノートとスマートフォンの両方を使っています。現場ではとにかく手書きを優先します。手を動かすことで、身体感覚がより深く刻まれるからです。帰宿後にスマートフォンのメモアプリへ転記し、検索できる状態にしておく——これが私の30年来のルーティンです。
続けるコツは「完璧を目指さないこと」に尽きます。一行でも、キーワード三つだけでも構わない。書かなかった日のことは翌日に書けばいい。ここで几帳面さが仇になる人を、職場でも何人か見てきました。記録は量より、続いていることそのものに価値があります。
フィールドノートとは結局、自分の観察眼を鍛え続けるための道具です。書くたびに「自分は何を見て、何を感じ、どう解釈したか」が明確になる。60歳になった今も、この問いを繰り返すことに共鳴しています。
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