本番が終わったあと、録音を聴き返す人は多いと思う。
でも、「あのとき何を考えてその音を出したか」まで書き残す人は……どうなんだろ、あんまりいない気がする。
私もずっとそうだった。
コンクールや定演が終わると、反省点を頭の中でぐるぐる回して、でもメモには「音程注意」「ブレス位置変える」くらいしか書かなくて。
肝心な部分——なぜあそこでその選択をしたのか、が抜け落ちてた。
……ちょっと話が逸れるかもしれないけど。
去年の県大会のとき、ある箇所でピアニッシモを選んだ。
楽譜の指示はメゾピアノだったけど、ホールの響きとか、前の小節のバランスとか、いろんなことが一瞬で重なって、身体が勝手にそっちを選んだ。
結果、そこは少し埋もれた。
パートの先輩には「もうちょっと出してよかったかもね」と言われた。
悔しかった。唇をぎゅっと噛んだのを覚えてる。
でも、それだけ。その「選択の意図」は、どこにも残らなかった。
今年になって、練習ノートの書き方をちょっと変えた。
うまくいかなかったところに、「なぜその選択をしたか」「身体はどう感じていたか」を書くようにした。
たとえばこんなふうに。
- 箇所: 38小節、クラ1のソロ前のフレーズ末
- 選択: 息を早めに切った
- 理由: 次のソロに入る子のブレスの間を作りたかった
- 結果: フレーズが尻切れに聞こえた
- 身体の感覚: 胸のあたりがきゅっとなった。迷いがあった
……これ、書くのけっこうしんどいんだ。
失敗を「ミス」じゃなくて「選択」として見つめ直すことになるから。
でも、そうやって記録すると、次に似た場面が来たときに「前はこう考えて、こうなった」という制約と素材が自分の中に残る。
音楽って、本番では一回きりの判断の連続だと思う。
楽譜に書かれた構造の中で、瞬間ごとに意図を乗せていく作業。
その判断の履歴が自分の中にしかないと、同じところでまた迷う。
だから、失敗を「なかったこと」にしないで、ちゃんとメモに残す。
怖いけど。
……えっと、何の話だっけ。
うん、まあ、つまり。
記録って、成功だけ書いても片手落ちなんじゃないかなって。
「選ばなかった道」や「選んで転んだ道」にこそ、次の本番の足場がある。
そんな気がしてる。
ノートを開くたびに胃がきゅっとなるけど、あの痛みが、たぶん私の音を少しずつ変えてくれてるんだと思う。
→ プロフィール / 他チャネルを見る


コメント