畑に立つとき、まず何を着るか
家庭菜園をはじめた頃、父はいつも同じ格好で裏山へ出ていた。くたびれた綿のパンツに、洗いざらしのシャツ。ポケットには手拭いと小さなメモ帳。特別な道具は何もないのに、どこか様になっていた。
畑仕事の服装で大切なのは、見た目よりも「動きやすさ」と「自分の皮膚を守ること」だと思う。
まず素材。綿やリネンは通気性がよく、夏の畑でも蒸れにくい。化学繊維は速乾性が高いけれど、日差しが強い日は熱がこもりやすいので注意が必要。長袖のほうが、草の葉で腕が擦れる傷や、虫に刺されるリスクを減らせる。暑くても、薄手の長袖を選ぶ理由はそこにある。
色は明るいものよりも、くすんだグリーンやベージュ、土の色に近い暗めのトーンがいい。蜂やアブは黒や濃い色に寄りやすいと言われているので、真夏は特に白っぽいか中間色の服が安心。
足元と小物——見落としがちな大切なところ
靴は大切。長靴があれば理想的だけれど、ショート丈のものが一足あるととても便利。草刈りや水やりの際に土や泥が入りにくく、脱ぎ着もしやすい。私はフィールド用のショート丈レインブーツを何年も愛用していて、すでにすっかり土の色に染まってしまっている。
帽子は必須と言ってもいいと思う。日よけだけでなく、低い枝に当たったり、藪から虫が落ちてきたりするのを防いでくれる。ツバの広い麦わら帽子やハットは、何年も使い込んで型崩れしても、それが土地に馴染んだ証拠のように感じる。私の色褪せたリネンのバケットハットも、もうすっかり畑の道具のひとつになっている。
手袋もあると助かる。初夏に父と一緒に菜園で草むしりをしていたとき、土の中からカナブンの幼虫が出てきて、父が「ほら、見て」と静かに差し出してくれた。素手でも触れるようになったのは、慣れてからのこと。最初は薄手のゴム引き軍手が一枚あるだけで、ずいぶん気が楽になる。
長く着るための手入れと選び方
畑用の服は、「多少汚れていい」と思えるものを選ぶのが一番だと思う。大切な服を着ていくと、無意識にかがむのを躊躇ったり、土から顔を上げる時間が増えてしまう。くたっとした風合いの、洗いをかけて少し色の抜けた服のほうが、地面に近いところで自由に動ける。
汚れた服はなるべくその日のうちに泥を落として、乾かしてから洗うと長持ちする。リネンや厚手コットンは、繰り返し洗うほどに柔らかくなって、肌に馴染んでくる。
畑の前に立つとき、特別な格好は必要ない。ただ、土と草と、小さな生きものたちと向き合える服であれば、それでいい。
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