評価シートに書けない「それ」を、どう渡すか
結論から言うと、身体知の伝承は「教える設計」ではなく「経験させる設計」に尽きます。
矢島が人事の仕事を続けてきて、ずっと引っかかっているテーマがこれです。評価制度を精緻に作り込めば作り込むほど、数値化できない熟練者の勘所——いわゆる暗黙知や身体知——が制度の網の目からこぼれ落ちていく感覚があるんですが、これは決して気のせいではないと考えています。
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「説明できないが、できる」という領域の正体
ゴルフに例えると伝わりやすいかもしれません。
矢島はアドレスとテイクバックの反復を何年も続けているんですが、「なぜそのタイミングで切り返せたか」を言語化しろと言われると、正直かなり詰まります。身体が覚えている、としか言いようがない。
職場でも同じことが起きています。
- 交渉場面での「ここで引く」という判断
- 部下の表情から読む「まだ腹落ちしていない」というズレの感知
- クレーム対応で「一拍置くタイミング」の見極め
これらはOJTで教えようとすると、言語化の段階で情報が劣化することが示唆される。マニュアルに落とした瞬間に「形」だけが残り、「感覚」は抜け落ちる。ここが肝なんですが。
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設計の考え方——三つの仕掛け
矢島が実際に関わった組織開発の経験から、有効だと感じた実装パターンを三点挙げます。
① 観察機会の制度化
熟練者の判断場面に、若手を「記録係」として同席させる。発言ではなくメモを取る役割。この一段引いた立場が、身体知の観察眼を育てることに収束した経験があります。
② 内省の構造化
週次の短い振り返りメモを上長がコメント付きで返す仕組み。評価ではなく「問い」を返すことがポイントです。『そのとき自分の身体はどう反応しましたか』という問いが、暗黙知の言語化の端緒になることがある。
③ 失敗事例の共有場
成功事例より失敗事例のほうが身体知を引き出しやすい。以前こういうケースがありまして——熟練者が「なぜあの場面で躊躇したか」を語った勉強会が、若手の学習密度を格段に上げたという経験があります。
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評価制度との接続について
ただし誤解してほしくないのですが、身体知の伝承を評価制度に組み込もうとするのは、矢島は慎重に考えています。
数値化できないものを無理に指標化すると、行動の「形式」だけが評価対象になり、本来の意図が失われる。要は、制度と伝承の場は別レイヤーで設計したほうが、長期的には定着率にも良い影響が出ることが示唆される——そういう共通認識から、今の矢島のスタンスは固まっています。
身体知は、育てる仕組みを静かに整えることでしか、次の世代に渡せない。それが10年以上この領域に携わってきた、矢島の結論に至るところです。
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