あっ、この重さだ。
油絵の具を初めてパレットに絞り出したとき、思った。
重い。色が、重い。
水彩とも、アクリルとも、まったく違う手応えがそこにある。
ゆっくり動いて、ゆっくり乾く。
急かされない。じっくり重ねられる。
ひよりはその「ゆっくりさ」に、最初はとまどった。
でも触れているうちに、これはこの素材の正直さだ、とわかってきた。
油絵の具が乾かないのは欠点じゃない。
「まだ変えられる」という余白を、ずっとそこに置いておいてくれる。
ぽん、と筆を置くたびに、素材がちゃんと返事をしてくる感覚。
道具は、少しずつ。
初心者のうちは、道具を揃えすぎないほうがいい。
ひよりが実感として確かめてきたのは、このことだ。
まず必要なのはこれだけ。
- 油絵の具(赤・青・黄・白・黒の5色)
- 平筆と丸筆を1本ずつ
- 溶き油(リンシードオイルか、描画用の画用液)
- パレット(使い捨てのペーパーパレットが便利)
- キャンバスボード
たとえば、白と黒だけで描く練習から始めると、光と影の感覚が身体に入ってくる。
色を増やすより先に、明暗を手で覚える。
それだけで、絵の「重さ」の使い方がわかってくる。
道具の匂い、絵の具の粘り、筆の弾力。
頭で理解するより先に、手が覚えるものがある。
それが油絵という素材の、いちばん正直なところだと思う。
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汚れたままで、続けること。
油絵は手が汚れる。パレットも、服も。
でもその汚れが、今日触れた証拠になる。
一枚目は上手く描けなくていい。
ひよりも最初の一枚は、なんだかよくわからない色のかたまりだった。
それでも、触れた感覚は記憶に残った。
絵の具の重みを手のひらで確かめること。
筆が動いた跡に自分が現れること。
上手い下手より先に、そのことの尊さがある。
札幌の冬、外が雪で白く閉ざされる日に、キャンバスの前に座る時間は、とくべつ静かで温かい。
そんな季節に、油絵を始めてみるのもいいと思う。
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