そもそもの話をすると
大学附属の法律相談室で受付補助をしていると、ときどき気になることがあります。相談に来られた方の記録が、一定期間を過ぎると廃棄されるという事実です。
これは個人情報保護の観点からすれば当然の運用かもしれません。ただ、生活保護の申請や住居確保給付金の利用を検討している方にとって、「いつ・どこで・何を相談したか」という記録は、自分がSOSを出した証拠そのものです。その記録が消えるということは、その人が助けを求めた事実ごと消えてしまうことに近い…かもしれません。
相談記録が持つ意味
生活保護法第7条は「申請保護の原則」を定めていますが、実務上、福祉事務所の窓口で申請に至らないまま帰されるケース──いわゆる「水際作戦」の問題は繰り返し指摘されてきました。このとき、事前に法律相談室や支援団体で相談した記録があれば、以下のような場面で意味を持ちます。
- 申請意思の裏付け:「この日に相談し、申請の準備を進めていた」という時系列の証拠になる
- 生活困窮の経緯整理:生活困窮者自立支援法に基づく支援プランの作成時、過去の相談履歴が状況把握の手がかりになる
- 不服申立て時の資料:審査請求(行政不服審査法)の段階で、相談経緯を示す客観的な記録が必要になることがある
現場で感じている課題
制度上は、ですけど、無料法律相談の記録保存期間や形式には統一的な基準がありません。相談室ごとに「1年で廃棄」「紙のみで保管」といった運用が異なり、相談者本人が記録の写しをもらえるかどうかも場所によります。
シェアハウスの同居人が以前、「自分が相談した事実すら残っていないのは、なかったことにされるみたいで怖い」とぽつりと言っていたことがあります。…あの言葉は、ずっと頭に残っています。
相談者自身にできること
法的な仕組みの整備を待つだけでなく、今すぐできる自衛策もあります。
- 相談日時・担当者名・相談内容の概要を自分でメモする(スマートフォンのメモアプリでも可)
- 相談記録の写しの交付を相談時にお願いしてみる
- 生活困窮者自立支援の窓口に繋がった場合、支援プランの控えを必ず受け取る
これらは特別な知識がなくてもできることですし、後から「あのとき確かに相談しました」と示すための最低限の備えになります。
記録を残すことは、存在を残すこと
相談記録の保存は地味なテーマですが、届くべき支援が届かなかった場面を何度か目にしてきた立場としては、ここが崩れると制度全体の信頼性に関わると思っています。記録がなければ、困っていた事実そのものが見えなくなる。見えないものは、制度の改善対象にもならない。
情報が届くべき人に届くことと同じくらい、「助けを求めた記録が残ること」は大切なのではないでしょうか。
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