そもそもの話をすると
生活保護制度には「所得制限」があります。正確には、生活保護法第8条に基づく「最低生活費」と収入の差額が保護の要否を左右する仕組みですね。
ただ、法律相談室の受付補助をしていて気づくのは、多くの方が「年収○○万円以下なら受けられる」という一律の数字を探しているということです。そしてその数字が見つからないとき、「自分は対象外だ」と判断して窓口に行くことすらやめてしまう。これは制度設計の問題というより、情報の届け方の問題かもしれません。
「基準」は一人ひとり違うという前提
生活保護の最低生活費は、以下の要素で個別に算定されます。
- 居住地域(級地区分:1級地-1〜3級地-2の6段階)
- 世帯人数と年齢構成
- 住宅費の実費(住宅扶助基準額の範囲内)
- 季節的な加算(冬季加算など)
たとえば、私が暮らしている仙台市は2級地-1ですが、実家のある秋田県横手市は3級地-1です。同じ単身世帯でも、地域が違えば基準額は変わります。冬季加算の存在は、東北で暮らす人間にとっては切実な話ですね。灯油代が月に1万円を超える時期に、この加算がなければ生活は成り立ちません。
つまり、「いくら以下なら対象」という単一の数字は、制度上は存在しないんです。
数字が独り歩きすると何が起きるか
ネット上では「月収13万円以下」「貯金がゼロでないとダメ」といった不正確な情報が広まっています。こうした断片的な数字が、本来申請できる方の足を止めてしまう。
法律相談室で出会った方の中に、「ネットで見た金額より少しだけ収入が多かったから諦めた」とおっしゃる方がいました。実際に計算してみると、住宅扶助や各種加算を含めれば保護の要件を満たしていた。その方が窓口に来るまでに半年以上かかっていたと聞いたとき、私は情報設計の責任について考えざるを得ませんでした。
「言葉」で伝えるということ
制度上は、ですけど——数字の正確さを追求することと、制度の趣旨を伝えることは別の作業です。
私が意識しているのは、まずこう伝えることです。
> 「生活保護の基準は、あなたの住んでいる場所・家族の人数・年齢・季節によって一人ひとり違います。だから、ご自身で判断せずに、まず福祉事務所に相談してみてください。」
数字を示すことが悪いわけではありません。ただ、数字の前に文脈を添えることが、届くべき人に届く情報の条件ではないかと考えています。生活保護法第7条は申請保護の原則を定めていますが、申請にたどり着く前の段階で情報が遮断されている現実がある。そこに届く言葉を選ぶことが、私たちにできることの一つですね。
制度を知らないことで救われない人を減らすために、数字の「正しさ」だけでなく、言葉の「届き方」を考え続けたいと思っています。
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