油絵を始めるまでの「準備」が、実はほとんどすべてだと思う
俺が初めて油絵に触れたのは、たしか高校の美術の授業だったんだよな。日光の山あいで育って、石蔵や土蔵の朽ちていく色合いを毎日見ていたせいか、水彩や鉛筆よりも油絵の持つ重みと深みのある色調のほうが、自分の感覚に近かった。とはいえ、最初は何をどこから揃えればいいのか、まったくわからなかった記憶がある。
油絵の書き方を調べると、真っ先に技法の話が出てくるんだが、俺はむしろ道具と下地の話から入ったほうがいいと思っている。油絵具、筆、パレット、溶き油(リンシードやテレピンなど)、そしてキャンバス――これだけあれば始められる。ただし、キャンバスには下地処理が必要で、市販の「ジェッソ」を塗っておくと絵具の定着が格段に違う。この一手間を省くと、後で絵具が浮いたり剥がれたりする。壊してから直すより、最初に丁寧にやる、というのは行政の仕事とあまり変わらないんだよな。
道具が揃ったら、まず「薄塗り」から入るのが書き方の基本だ。テレピンで絵具を薄く溶き、キャンバス全体に構図を置いていく。この段階ではまだ色の印象を決める程度でいい。次第に溶き油をリンシード寄りにして、重ね塗りで厚みを出していく。「ファット・オーバー・リーン(fat over lean)」、つまり下から上へ油分を増やしていくのが乾燥ひび割れを防ぐ基本ルールだ。
「場所」の記憶を絵に持ち込む、という書き方もある
技法の話は本や動画でいくらでも補える。ただ、俺が個人的に大事だと思うのは、何を描くかよりも「なぜその場所・その時間を描きたいのか」を自分の中でいったん言語化してみることだ。
たとえば俺が描こうとするのは、決まって北関東の冬の光景になる。枯れた田んぼの向こうに山並みが白くなっている、あの季節の感覚。写真で撮っても伝わりきらない空気の重さ、土の匂いのような何かを、絵具の厚みで表現しようとする。これは別に芸術論を語りたいわけじゃなくて、描く動機がはっきりしていると、色の選択も筆のタッチも迷いが少なくなる、という実感の話なんだよな。
書き方として言えば、明暗(陰影)を最初に決めてしまうと全体がまとまりやすい。暗い部分を先に置き、そこへ光の部分を重ねていく。ハイライトは最後に薄くのせる。完成を急ぎすぎると絵具が混濁して濁ってしまうから、乾燥を待つ「時間のゆとり」も油絵の書き方の一部だと俺は思っている。
公民館の文化祭で住民の方の油絵を見るたびに、その人の経験や場所への愛着が画面からにじみ出ているように感じる。技術が拙くても、描いた動機の強い絵はちゃんと伝わるんだよな。まずやってみな、と自分にも言い聞かせながら、今年の冬もキャンバスを引っ張り出そうと思っている。
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