「oil painting」という言葉から始まった話
先日、市内の公民館で社会人向けの英会話講座を担当している講師の方と話す機会があった。その講座で、地域の文化や歴史を英語で紹介するというテーマの回を設けたいという相談だった。そこで出てきたのが、「油絵(oil painting)」という言葉だった。
油絵は英語で oil painting。画家のことは oil painter、油絵の具は oil paint や oil color と言う。技法を説明するとき、キャンバスは canvas、筆は brush、下塗りは ground や priming という。こうした基本語彙を一通り整理してみると、英語そのものよりも、「自分たちの地域の文化を、外から来た人にどう説明するか」という問いのほうが、ずっと重くのしかかってきた。
当たり前のように地元にあるもの――古い町並み、地域の祭礼、公民館に飾られた地元作家の油絵――を、改めて言語化してみると、自分でも説明できないことが意外と多いんだよな。「いいものだ」という感覚はある。でも、なぜいいのか、どういう文脈で生まれたのかを語る言葉を、俺たちは案外持っていない。
地域の文化を「言葉にする」ことの意味
俺が現場で見てきた限りじゃ、文化財の保護や地域資源の継承で一番難しいのは、「伝えること」なんだ。建物を残す、記録を作る、それだけじゃ足りない。誰かが言葉で語れるようになって、初めて次の世代に渡る。
たとえば、宇都宮市内のある地区の公民館には、地元出身の洋画家が昭和40年代に描いた油絵が数点飾られている。長く地域の顔になってきた作品だが、作者の経歴を説明できる住民は今やほとんどいない。絵そのものは残っていても、それを取り巻く「語り」が失われかけている。
これを英語で外国人観光客に紹介しようとすると、たとえばこんな文になる。
> “This oil painting was created by a local artist in the 1960s. It depicts the landscape of this neighborhood as it once was.”
シンプルな文だ。でも、この文を組み立てようとしたとき、まず日本語で「語れる」ことが前提になる。英語以前の問題として、自分たちの文化を自分の言葉で説明できているか、そこを問い直す必要があるんだよな。
言語化が、守ることへの第一歩になる
「oil painting」という英単語一つから随分遠くまで来てしまった気もするけど、まあ、俺はこういう話の流れのほうが性に合っている。
地域の文化を英語で発信することは、インバウンド対策としても意味がある。ただ、俺がもっと重要だと思うのは、その過程で「日本語でも語れていなかったものを発見する」という副産物だ。翻訳しようとして初めて気づく、語彙の欠落。それが、保護や記録の出発点になることは少なくない。
公民館の講座でも、地域の歴史や文化を英語で紹介する練習をすることで、参加した住民が地元への関心を新たにすることがある。「知っているつもりで知らなかった」という気づきが生まれる。それは、英語学習の枠を超えた、地域への再接続なんだと思う。
壊してから気づくより、語ってみて気づくほうがずっといい。記録と言語化は、地域の文化を守る実務の中で、俺が一番大切にしてきたことでもある。
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